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福井地方裁判所武生支部 昭和47年(ワ)63号 判決

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 小酒井好信

被告 丙川春子こと 乙山花子

右訴訟代理人弁護士 八十島幹二

同 吉川嘉和

被告 月山一郎こと 月山春夫

〈ほか二名〉

主文

被告丙川春子こと乙山花子は、別紙第四物件目録記載の土地について、福井地方法務局武生支局昭和四二年一〇月六日受付第九八九九号の共有者甲野太一持分移転登記の抹消登記手続をせよ。

被告月山一郎こと月山春夫は、別紙第一物件目録記載の土地について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記の抹消登記手続をせよ。

被告海川夏夫は原告に対し、別紙第二物件目録記載の土地について、右同支局昭和四二年九月二一日受付第九三七二号の所有権移転登記中、「所有者海川夏夫」とあるを「共有者持分八分の三甲野太郎、持分八分の五海川夏夫」とする更正登記手続をせよ。

被告山川秋夫は原告に対し、別紙第三物件目録記載の土地について、右同支局昭和四二年九月二一日受付第九三七三号の所有権移転登記中、「所有者山川秋夫」とあるを「共有者持分八分の三甲野太郎、持分八分の五山川秋夫」とする更正登記手続をせよ。

原告の被告海川夏夫に対する、別紙第二物件目録記載の土地について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記の抹消登記手続を求める訴えは、これを却下する。

原告の被告山川秋夫に対する、別紙第三物件目録記載の土地について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記の抹消登記手続を求める訴えは、これを却下する。

原告の被告丙川春子こと乙山花子、同海川夏夫、同山川秋夫に対するその余の請求は、いずれもこれを棄却する。訴訟費用は、原告と被告丙川春子こと乙山花子、同月山一郎こと月山春夫との間においては、それぞれ全部同被告らの負担とし、原告と被告海川夏夫、同山川秋夫との間においては、それぞれ原告に生じた費用の二分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

1、被告丙川春子こと乙山花子(以下「被告乙山」という。)は、別紙第四物件目録記載の土地(以下「本件第四の土地」という。)について、福井地方法務局武生支局昭和四二年一〇月六日受付第九八九九号の共有者甲野太一持分移転登記(以下「共有者甲野太一持分移転登記」という。)および右同支局同年同月二三日受付第一〇三一九号の月山一郎持分全部移転登記(以下「月山一郎持分全部移転登記」という。)の各抹消登記手続をせよ。

2、被告月山一郎こと月山春夫(以下「被告月山」という。)は、別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件第一の土地」という。)について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記(以下「甲野太一持分全部移転登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

3、被告海川夏夫(以下「被告海川」という。)は、別紙第二物件目録記載の土地(以下「本件第二の土地」という。)について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記(甲野太一持分全部移転登記)および右同支局昭和四二年九月二一日受付第九三七二号の所有権移転登記(以下「被告海川に対する所有権移転登記」という。)の各抹消登記手続をせよ。

4、被告山川秋夫(以下「被告山川」という。)は、別紙第三物件目録記載の土地(以下「本件第三の土地」という。)について、右同支局昭和四一年五月一八日受付第四〇三四号の甲野太一持分全部移転登記(甲野太一持分全部移転登記)および右同支局昭和四二年九月二一日受付第九三七三号の所有権移転登記(以下「被告山川に対する所有権移転登記」という。)の各抹消登記手続をせよ。

5、訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告ら

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求の原因

1、亡甲野太一(以下「甲野太一」という。)は、もと本件第一ないし第四の土地(以下総称して「本件土地」という。)について、いずれも二分の一の共有持分権を有していた。すなわち、甲野太一は、被告月山と共同して別紙売買一覧表記載のとおり本件土地を、共有持分の割合を各二分の一と定めて買い受け、その共有持分権を取得した。

2、甲野太一は、慶尚南道○○郡△△面△△里×××番地に本籍のある韓国国籍を有する日本在留の外国人であったが、昭和四〇年三月一八日福井県○○市△町×号×番地において死亡し、相続が開始された。

3、法例二五条によれば、相続は被相続人の本国法がいわゆる国際私法上の準拠法とされているところ、原告は甲野太一の長男であり、かつ甲野太一は戸主であったので、韓国民法九八〇条一号前段に基づき戸主相続が開始され、原告は本件土地の共有持分権を含め甲野太一の有していた権利義務の一切を包括承継するに至った。

4、被告乙山は、甲野太一の内縁の妻であるが、甲野太一の死亡後、相続人である原告が韓国に居住している事実を熟知していたにもかかわらず、被告乙山が相続人である旨の自己証明書および在日朝鮮人総連合会福井県本部委員長○○○作成にかかる証明書を添付したのみで、それ以外には何ら「相続を証する書面」の添付をなすことなく、本件第四の土地について相続を原因とする共有者甲野太一持分の移転登記を申請し、右登記申請が受理された結果、同土地について共有者甲野太一持分移転登記がなされた。

5、被告乙山は、甲野太一の死亡後被告月山との間において、本件土地について共有物分割の協議をなし、本件第一ないし第三の土地については甲野太一にかかる二分の一の共有持分権全部を被告月山に移転し、本件第四の土地については被告月山にかかる二分の一の共有持分権全部を被告乙山に移転することを相互に協定し、本件第一ないし第三の土地について甲野太一持分全部移転登記、本件第四の土地について月山一郎持分全部移転登記がそれぞれなされた。

6、被告月山は、昭和四二年九月一五日被告海川に対し本件第二の土地を贈与し、もってその所有権を移転し、同土地について被告海川に対する所有権移転登記がなされた。

7、被告月山は、さらに昭和四二年九月一五日被告山川に対し本件第三の土地を贈与し、もってその所有権を移転し、同土地について被告山川に対する所有権移転登記がなされた。

8、本件土地について、武生市施行の丹南都市計画四部第一土地区画整理事業が行われ、昭和五三年六月一三日換地処分がなされ、同月一四日その効力が発生したことにより、従前の土地は別紙第一ないし第四物件目録記載のとおり換地された。

9、しかしながら、被告乙山は、甲野太一の真正な相続人には該当しないので、相続により本件土地について何らの権利を承継するいわれはなく、無権限である同被告によってなされた共有物分割の協議は無効であり、したがって被告月山、同海川、同山川においていずれも甲野太一の有していた本件土地の二分の一の共有持分権を取得するいわれはない。

10、よって原告は、被告乙山に対し、本件第四の土地について共有者甲野太一持分移転登記および月山一郎持分全部移転登記の各抹消登記手続を、被告月山に対し、本件第一の土地について甲野太一持分全部移転登記の抹消登記手続を、被告海川に対し、本件第二の土地について甲野太一持分全部移転登記および被告海川に対する所有権移転登記の各抹消登記手続を、被告山川に対し、本件第三の土地について甲野太一持分全部移転登記および被告山川に対する所有権移転登記の各抹消登記手続を求める。

二、請求の原因に対する被告乙山の答弁

1、請求の原因1の主張は争う。甲野太一にかかる本件土地の共有持分権は同人が単独で取得したものではなく、同人と被告乙山とが共同で取得したものである。また、被告乙山と甲野太一とは、昭和二八年暮に結婚して以来、甲野太一が死亡するまで二人の労働によって生活を維持してきたものであり、甲野太一名義の不動産は両名の共有に属するものであった。

2、同2の事実のうち、甲野太一が原告主張の日にその主張の場所で死亡し相続が開始されたこと、同人が当時在日外国人であったことは認めるが、同人の国籍については争う。在日朝鮮人の国籍については、単に韓国に戸籍があることをもって韓国国籍と判断してはならず、外国人登録、在日外国人団体の所属関係、その他生活の実際状態に即して検討しなければならないところ、甲野太一の外国人登録原票の国籍欄には「朝鮮」と記載されていること、甲野太一は、生前ずっと在日本朝鮮人総連合会に所属していること、また、交友関係その他社会生活全般においても朝鮮人として生きてきたし朝鮮人として死亡したこと等の事実に徴して明らかなとおり、甲野太一の国籍は朝鮮民主主義人民共和国であった。

3、同3の事実ないし主張のうち、法例二五条の説明は認める。原告が甲野太一の長男であることは知らない。その余の事実ないし主張は争う。

4、同4の事実のうち、被告乙山が甲野太一の妻であったこと(ただし、内縁の妻ではなく、法律上の妻であった。)、本件第四の土地について共有者甲野太一持分移転登記がなされたこと、は認めるが、被告乙山において原告が相続人であることを熟知していたとの点は否認する。

5、同5ないし7の各事実はいずれも認める。

6、同9の主張は争う。

三、請求の原因に対する被告月山の答弁

1、請求の原因1の前段の主張は認める。

2、同2の事実のうち、甲野太一が韓国国籍を有する日本在留の外国人であったこと、同人が原告主張の日にその主張の場所で死亡し相続が開始されたこと、は認める。

3、同3の事実ないし主張は知らない。

4、同4の事実のうち、本件第四の土地について共有者甲野太一持分移転登記がなされたことは認める。

5、同5の事実は認める。ただし、後記六の被告月山、同海川、同山川の抗弁のとおり、本件土地についての共有物分割の協議は昭和三八年一一月一〇日甲野太一と被告月山との間において既に成立していたものである。

6、同6、7の各事実はいずれも認める。

7、同9の主張は争う。

四、請求の原因に対する被告海川の答弁

1、請求の原因1の前段の主張は認める。

2、同2ないし4の各事実ないし主張はいずれも知らない。

3、同5の事実のうち、本件第一ないし第三の土地が被告月山の単独所有となったことは認めるが、その余の事実は否認する。

4、同6の事実のうち、被告月山が被告海川に対し本件第二の土地を贈与し、同土地について被告海川に対する所有権移転登記がなされたことは認める。

5、同7の事実のうち、本件第三の土地について被告山川に対する所有権移転登記がなされたことは認める。

6、同9の主張は争う。

五、請求の原因に対する被告山川の答弁

1、請求の原因1の前段の主張は認める。

2、同2ないし4の事実ないし主張は知らない。

3、同5の事実のうち、本件第一ないし第三の土地が被告月山の所有になったことは認めるが、その余の事実は知らない。

4、同6の事実のうち、被告月山が被告海川に対し本件第二の土地を贈与したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5、同7の事実のうち、被告月山が被告山川に対し本件第三の土地を贈与したことは認めるが、その余の事実は否認する。

6、同9の主張は争う。

六、被告月山、同海川、同山川の抗弁

本件土地については、甲野太一が生存中の昭和三八年一一月一〇日同人と被告月山との間において、同土地を南と北に折半して埋立て完了後北側は甲野太一、南側は被告月山の各所有とする旨の共有物分割の協議が成立していた。

七、被告乙山の抗弁

1、韓国民法所定の戸主相続の制度は、わが国の公序良俗である個人の尊厳、両性の平等に反し、法例三〇条により本件に適用すべき余地はない。

すなわち、韓国民法上の戸主相続の制度は、わが国の旧民法の戸主制度によく似ており、しかも、韓国民法九九一条による戸主相続権の放棄の禁止や親族会議がないことおよび同法九九三条の規定がその家の系統を継承する血族たることを要件としている点などからみて、むしろ旧民法よりもずっと大家族制にマッチするものであって、それが、現在のわが国の公序良俗と個人の尊厳、法の下の平等などの人倫についての基本原則に関して一致しないものであることはあらためて説明するまでもない。相続についても、個人の尊厳、平等を重んじて大家族制度を否定し、その法定相続制度は、相続財産形成についての寄与、被相続人の意思の推定、遺族の生活についての公的扶助の補充のために運用されること社会通念である。

甲野太一が長年日本に居住し被告乙山を妻(少なくとも外国人登録上の届出のある)として、在日朝鮮人として生活を続け、原告所属の大家族とは殆んど関係なく暮らしていたことは、前記韓国民法の規定にもかかわらず、その死亡時にはもはや甲野家の戸主ではなかったものと評価すべきである。そうであるのに、原告の戸主相続を容認することは、在日朝鮮人(韓国人)には韓国にある戸籍についての、離婚やその他の手続が事実上できなかったことをも考え合わせると、日本における家族関係を法的保護の著しく欠く状態に落としめる結果となり、わが国の社会通念にも反し公序良俗に背くものというべきである。

2、原告の本訴請求権は、原告が被告乙山の本件土地の相続を知った昭和四〇年三月ころから三年以上を経過した昭和四三年四月には、韓国民法九八二条二項により消滅したものである。

八、被告月山、同海川、同山川の抗弁に対する原告の答弁

右抗弁事実は否認する。

九、被告乙山の抗弁に対する原告の答弁

右抗弁1、2の各主張はいずれも争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一、甲野太一がもと本件土地について、いずれも二分の一の共有持分権を有していたことは、原告と被告月山、同海川、同山川との間では争いがなく、原告と被告乙山との間では、《証拠省略》によって、甲野太一が被告月山と共同して昭和三八年一〇月一一日ころ前主の海山冬夫らから、その所有にかかる本件土地を、共有持分の割合を各二分の一と定めて買い受け、同土地について二分の一の共有持分権を取得したことを認めることができる。被告乙山は、「甲野太一にかかる本件土地の共有持分権は、同人が単独で取得したものではなく、同人と被告乙山とが共同で取得したものである」と主張し、《証拠省略》中には右主張にそう趣旨の供述記載部分がないではないが、当該供述記載部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できない。また、被告乙山は、「被告乙山と甲野太一とは昭和二八年暮に結婚して以来甲野太一が死亡するまで二人の労働によって生活を維持してきたものであり、甲野太一名義の本件土地の共有持分権は右両名の共有に属するものであった」と主張し、甲野太一と被告乙山とが昭和三〇年一月三〇日ころ結婚して以来甲野太一が死亡する昭和四〇年三月一八日まで夫婦として共同生活を継続し、甲野太一の営む反毛工業を被告乙山が手伝いながら、その収入によって生活を維持してきたことは後記三2で認定のとおりであるが、そうであったとしても、甲野太一が前記認定のとおり被告月山と共同して自己の名において本件土地を買い受け、その二分の一の共有持分権を取得している以上、それは甲野太一の特有財産と認めるべきであって、実質的に夫婦である甲野太一と被告乙山との共有財産であるとは認め難い。他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

二、甲野太一が昭和四〇年三月一八日福井県○○市△町×号×番地において死亡したこと、同人が当時在日外国人であったことは、原告と被告乙山、同月山との間では争いがなく、原告と被告海川、同山川との間では、《証拠省略》によって、これを認めることができ、《証拠省略》中、右認定に反する部分はこれを措信しない。

三、原告は、「原告は、韓国民法所定の戸主相続により、甲野太一から本件土地の共有持分権を承継取得した」と主張するので、以下、この点について判断する。

1、法例二五条によれば、相続に関する準拠法は被相続人の本国法に依る旨定められているので、まず、被相続人である甲野太一の死亡当時の本国法について検討する。

朝鮮は、第二次大戦後の政治的変動によって二つの法域に分裂し、大韓民国(以下「韓国」という。)と朝鮮民主主義人民共和国(以下「北鮮」という。)とがそれぞれ別個、独自の法秩序を形成し、しかも各政府においてお互にその法秩序が朝鮮の全領域、全住民に対して及ぶと主張しているが、現実にはいわゆる三八度線を境として南部と北部の各地域を各別に支配統治しており、各政府の法秩序はその支配領域に限って実効性を有していることは当裁判所に顕著な事実である。

その結果、朝鮮人は、韓国と北鮮との二重国籍を併有することが少なくないが、政治的変動によって生じた朝鮮人の二重国籍については、法例二七条一項本文の規定が本来予想した場合ではないから、これによって解決すべきではなく、その本国法の決定にあたっては、同法条の本国法主義の趣旨に照らし、当事者の本籍地、現在の住所、居所および過去の住所、親族の住所、さらに当事者の意思などすべての事情を総合考慮して、当事者の身分関係と右いずれの地域とがより密接な関係を有するかという観点に立脚してこれを決定するのが相当である。

本件についてこれをみるに、《証拠省略》によれば、甲野太一は、韓国の支配領域に属する慶尚南道○○郡△△面△△里×××番地に本籍を有していたこと、甲野太一は、右の本籍地で生まれ、昭和の初めころ日本に渡来するまでは本籍地で生育していること、甲野太一は、昭和一一年六月六日日本において星山花代と結婚し、その間に原告、次郎(昭和一八年二月二五日死亡)、夏子、冬子の四児をもうけたが、昭和一九年一二月一三日星山花代が死亡したので、翌昭和二〇年二、三月ころ原告ら三児を連れて韓国に帰国したこと、甲野太一は、帰国後しばらくの間は家屋敷のある本籍地に居住していたが、その後再び日本へ渡る昭和二一年某月ころまで本籍地から約七二キロメートル離れた韓国の支配領域に属する慶尚北道の大邱で働らいていたこと、甲野太一は、原告ら子女に対し、いずれ迎えに来るからしばらく辛抱して待つように言い残して、昭和二一年某月ころ単身で再び日本に渡来し、以来昭和四〇年三月一八日死亡するまでの間、昭和二二年ころに数日間本籍地に帰国したことがあるほかは、ずっと日本に在留していたが、本籍地ないし韓国の支配領域に属する周辺の地域には甲野太一の弟に当たる甲野太三や叔父に当たる甲野二太をはじめ多数の親族が居住しており、甲野太一の長男である原告(夏子は昭和二一年二月二五日、冬子は同二三年一月七日相次いで死亡)も本籍地、大邱、その後韓国の支配領域に属するソウル等に居住していたこと、甲野太一は、朝鮮戦争が休戦になった昭和二八年七月(この点は当裁判所に顕著な事実である。)ころ以降、時々韓国にいる長男の原告に安否を気遣う手紙を書き送ったり、生活物資を仕送りしており、昭和三九年ころには知合いの山星海夫に託して韓国慶尚南道の馬山において直接原告に生活資金や衣料品を手渡していること、が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

もっとも、《証拠省略》によれば、甲野太一は、昭和二四年ころから昭和四〇年三月一八日死亡するまで北鮮系の在日本朝鮮人総連合会(以下「朝鮮総連」という。)に所属し、朝鮮総連福井県本部○○分会の役員をしていたことが認められるけれども、他方、右各証拠によれば、朝鮮総連の構成員となるために一定の資格要件や特別の手続が要求されていたわけではなく、韓国系の大韓民国居留民団(以下「民団」という。)に現実に所属してさえいなければ、在日朝鮮人は北鮮、韓国の国籍を問わず誰でも自由に朝鮮総連に加入できる建前になっていたこと、そして、一つの朝鮮を唱える在日朝鮮人がもっぱら政治的な信条から朝鮮総連に所属していることが多く、その中には韓国国籍を有する者も一部混在していたこと、また、在日朝鮮人が帰省等の目的で一時韓国に旅行する場合は、韓国国籍を有し民団に所属することが必要あるいは便宜であるため、朝鮮総連から民団に転属する例も少なからずあったこと、が認められるうえ、甲野太一が将来北鮮の方に帰国定住する意思を有していたものと認めるべき証拠はない。右認定のような朝鮮総連の実態や同団体への所属による得失等のほか、前記認定のような甲野太一の本籍地、過去の住所、長男の原告を含む親族の住所等がいずれも韓国にあること、したがって、また、甲野太一が将来北鮮の方に帰国定住する意思を有していたとは考えられないことなどの諸事情にかんがみると、甲野太一が朝鮮総連に所属していた事実をもって、単純に同人が韓国国籍を離脱し北鮮国籍を取得したいとの意思を表明したものとは受け取り難く、甲野太一の本国法の決定にあたって右朝鮮総連所属の事実を重視することは困難であると考える。

なお、《証拠省略》によれば、甲野太一の外国人登録原票には国籍欄に「朝鮮」と記載されていたことが認められるが、朝鮮の正統政府として日本が承認しているのは韓国政府であるとの当裁判所に顕著な事実ならびに《証拠省略》に照らして考えると、右「朝鮮」なる記載が必ずしも北鮮国籍を正確に表示したものとは認められない。

前記認定の事実によると、甲野太一は、その死亡当時、北鮮よりも韓国と身分上密接な関係を有していたものと認められるので、同国の法律をもって法例二五条にいう被相続人の本国法であると解するのが相当である。

2、被相続人である甲野太一の本国法である韓国民法(一九五八年二月二二日法律第四七一号)によると、相続には、前戸主の権利義務(身分上の戸主権)を承継するいわゆる戸主相続と、被相続人の財産に関する包括的権利義務を承継するいわゆる財産相続の二種類があり、種類毎に相続開始の原因、相続人の範囲・順位、相続の効力等が法定されていること、前戸主が死亡した場合には右のいわゆる戸主相続と財産相続とが共に開始され(九八〇条一号、九九七条)、戸主相続においては、被相続人の直系卑属男子が第一順位で、しかも、そのうち最近親、婚姻中の出生子、さらに年長者が最も先順位で相続人となり(九八四条、九八五条)、財産相続においては、被相続人の直系卑属(最近親を先順位とし、同親等の相続人が数人あるときは共同相続人となる。)と被相続人の妻が第一順位で相続人となること(一〇〇〇条、一〇〇三条)が認められる。ところで、韓国民法が婚姻の申告(届出)を婚姻の効力発生要件とする法律婚主義を堅持し(八一二条)、事実婚主義または形式婚主義を採用していないことにかんがみると、財産相続権を認められる妻は法律上婚姻した妻に限られ、婚姻の申告をしていない、いわゆる事実婚の妻(日本におけるいわゆる内縁の妻)には財産相続権がないものと解すべきである。

本件についてこれをみるに、《証拠省略》によれば、甲野太一は、戸主であったところ、昭和一一年六月六日日本において星山花代と結婚し、その間に昭和一二年一月八日長男原告、同一四年一月一日二男次郎、同一六年九月二七日長女夏子、同一八年一二月三〇日二女冬子をもうけたが、昭和一八年二月二五日二男次郎、同一九年一二月一三日妻花代、同二一年二月二五日二女冬子、同二三年一月七日長女夏子が相次いで死亡し、甲野太一の相続開始当時長男の原告しか生存していなかったこと、甲野太一は、再度日本に渡来したのち日本において日本人の某春代と結婚して同棲し、その間に甲野陽一こと甲野月夫、甲野陽二こと甲野星夫をもうけたが、その後春代とは離別したこと、さらに甲野太一は、昭和三〇年一月三〇日ころ被告乙山と結婚し、以来昭和四〇年三月一八日甲野太一が死亡するまで○○市内において同被告と夫婦として共同生活を継続し、甲野太一の営む反毛工業を被告乙山が手伝いながら、その収入によって生活を維持してきており、その間に昭和三〇年一〇月二四日甲野秋代をもうけたこと、が認められる。

ところで、甲野太一と星山花代、某春代および被告乙山との間の各婚姻の成否ならびに甲野太一と原告、甲野月夫、甲野星夫および甲野秋代との間の各親子関係の成否の問題は、甲野太一の遺産の相続の問題(いわゆる本問題)を解決するための、いわゆる先決問題に該当するところ、先決問題の準拠法を如何に決定するかについては、(1)法廷地の国際私法による、(2)本問題の準拠法の属する国の国際私法による、など説が分かれている。しかし、婚姻の成立要件、嫡出子、認知に関する準拠法については、法廷地の国際私法すなわち日本の法例も、本問題の準拠法の属する国際私法すなわち韓国の渉外私法(一九六二年一月一五日法律九六六号)も全く同趣旨の規定になっているので、いずれの国際私法によっても同じ解決がもたらされる結果となる。

法例一三条一項但書によれば、婚姻の方式に関する準拠法は婚姻挙行地の法律に依る旨定められているところ、婚姻挙行地である日本の民法、戸籍法によれば、婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによって、その効力を生ずるとされ、その届出は、当事者双方および成年である証人二人以上の連署と戸籍法所定の事項を記載した婚姻届を届出人の所在地で提出してこれをしなければならないとされている(民法七三九条、戸籍法二五条以下、七四条)。なお、在日外国人の婚姻については、自国の方式による婚姻も、法例一三条二項および民法七四一条により相互主義の原則上、国際慣例として有効と解されるべきであるところ、韓国の民法、戸籍法上の婚姻の方式に関する規定も日本の民法、戸籍のそれとほぼ同趣旨の規定になっていることが認められる(韓国民法八一二条、八一四条、韓国戸籍法二五条以下、七六条、七七条)。また、本件に即してみると、法例一七条によれば、嫡出子に関する準拠法は子の出生当時母の夫の属したる国の法律(本国法)に依る旨、法例一八条によれば、子の認知の要件に関する準拠法はその父に関しては認知の当時父の属する国の法律(本国法)に依り、認知の効力に関する準拠法は父の本国法に依る旨定められているが、認知の方式に関する準拠法は法例一八条がとくに言及していないので、法律行為の方式一般に関する法例八条によってその準拠法を定めるのが相当であり、したがって認知の効力を定むる法律すなわち父の本国法もしくは行為地法に依ることになる。

《証拠省略》によれば、甲野太一と星山花代とは一九三六年(昭和一一年)六月六日韓国の方式による所定の婚姻の申告をしており、原告は甲野太一と星山花代とが婚姻中であり、かつ、その婚姻成立の日から二〇〇日後である昭和一二年一月八日に生まれていることが認められ、前記三1の認定、判断に照らし、韓国の法律をもって原告の出生当時における甲野太一の本国法であると解するのが相当であるので、原告は甲野太一の嫡出子と推定される(韓国民法八四四条)。しかしながら、本件全証拠によっても、甲野太一と某春代および甲野太一と被告乙山とが日本もしくは韓国の方式による所定の婚姻の届出もしくは申告をし、これが受理されたことを認めるに足りないので、甲野太一と某春代および甲野太一と被告乙山とはいわゆる事実婚(内縁)であったというほかはなく、したがって被告乙山らは甲野太一の遺産について財産相続権を有しないものというべきである。また事実婚によって出生した子は、父が認知するまでは非嫡出子たる身分を取得できないところ、本件全証拠によっても、生父である甲野太一が婚姻外の出生子である甲野月夫、甲野星夫および甲野秋夫に対し韓国民法(八五九条)、韓国戸籍法(六〇条等)所定の認知の申告をしたことを認めるに足りない。ただし、認知の方式に関する準拠法は父たる甲野太一の本国法である韓国の法律(前記三1の認定、判断に照らし、そのように解するのが相当である。)もしくは行為地法すなわち日本の法律によることになるが、韓国もしくは日本の法律の解釈上、たとえば父母が事実婚から生まれた子を自分の子であるとして出生届をしたような場合には、これによって認知の効力が生じたものと解するのが相当であるところ、《証拠省略》によれば、甲野太一は、被告乙山との事実婚によって出生した甲野秋代を自分の子として、昭和三〇年一一月一〇日福井県武生市長に対し出生届をし、これが受理されていることが認められるので、これによって、甲野秋代は、甲野太一の非嫡出子たる身分を取得するに至ったものというべきである。

以上の認定事実によると、戸主であった甲野太一の死亡により、いわゆる戸主相続と財産相続が共に開始され、原告が最も先順位の戸主相続人として甲野太一の戸主権を相続するとともに、原告と甲野秋代が第一順位の財産相続人として同人の財産を承継したことになるところ、原告と甲野秋代の財産相続における法定相続分は、原告が同時に戸主相続をするためその固有の相続分の五割が加算される(一〇〇九条一項但書)結果、原告四分の三、甲野秋代四分の一となる。

3、被告乙山は、抗弁として、「韓国民法所定の戸主相続の制度は、わが国の公序良俗である個人の尊厳、両性の平等に反し、法例三〇条により本件に適用すべき余地はない」と主張する。

しかしながら、原告において、甲野太一にかかる本件土地の二分の一の共有持分権を、法定相続分四分の三の割合に応じて承継取得したのは、前記2で判示のとおり韓国民法にいわゆる戸主相続によるのではなく、財産相続によるものであるから、被告乙山の右主張は、まず、この点において誤解があり、失当たるを免れない。ただ、原告は、同時に戸主相続をするため固有の法定相続分にその五割が加算されるが、法例三〇条にいわゆる公序の法則は、外国法を具体的な事案の解決、処理のために適用した結果が、内国の社会生活の秩序を紊るときに初めて援用されるべきものと解すべきところ、被告乙山は前記2で認定のとおり甲野太一の単なる内縁の妻にすぎず、そもそも相続権を有していないのであるから、法例三〇条の援用の要件を欠いているといわなければならない。

したがって、被告乙山の右法例三〇条援用の抗弁は採用できない。

4、以上のとおり、原告は、甲野太一の死亡により、同人が有していた本件土地の二分の一の共有持分権を、法定相続分四分の三の割合に応じて承継取得したものである。

四、本件第四の土地について、被告乙山のため共有者甲野太一持分移転登記がなされていることは、原告と被告乙山との間では争いがない。

被告乙山が甲野太一の死亡後被告月山との間において本件土地につき共有物分割の協議をなした結果、本件第一ないし第三の土地については甲野太一にかかる二分の一の共有持分権全部を被告月山に移転し、本件第四の土地については被告月山にかかる二分の一の共有持分権全部を被告乙山に移転することを相互に協定し(以下これを「本件共有物分割」という。)本件第一ないし第三の土地について被告月山のため甲野太一持分全部移転登記、本件第四の土地について被告乙山のため月山一郎持分全部移転登記がそれぞれなされたことは、原告と被告乙山との間では争いがなく、原告と被告月山、同海川、同山川との間では、前記二の事実および《証拠省略》により、これを認めることができる。被告月山、同海川、同山川は、抗弁として、「本件土地については、昭和三八年一一月一〇日甲野太一と被告月山との間において南と北に折半して北側は甲野太一、南側は被告月山の各所有とする旨の共有物分割の協議が成立していた」と主張するが、本件全証拠によっても、右主張事実を認めるに足りないので、右抗弁は採用できない。

被告月山が昭和四二年九月一五日被告海川に対し本件第二の土地を贈与し、同土地について同被告のため被告海川に対する所有権移転登記がなされたことは、原告と被告海川との間では争いがなく、また、被告月山が昭和四二年九月一五日被告山川に対し本件第三の土地を贈与したことは、原告と被告山川との間では争いがなく、同当事者間において《証拠省略》によれば、同土地について同被告のため被告山川に対する所有権移転登記がなされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、《証拠省略》によれば、武生市を施行者とする丹南都市計画西部第一土地区画整理事業の施行により、昭和五三年五月三〇日本件土地について別紙第一ないし第四物件目録記載のとおり換地処分がなされ、同年六月一三日その旨の公告がなされたことが認められ、これによれば、右換地処分は右公告の翌日である同月一四日からその効果が生ずるに至った。

五、被告乙山は、抗弁として、「原告の本訴請求は、原告が被告乙山の本件土地の相続を知った昭和四〇年三月ころから三年以上を経過した昭和四三年四月には、韓国民法九八二条二項により消滅した」と主張する。

ところで、原告の本訴請求は、所有権に基づく物権的な妨害排除請求権として構成されているので、まず、同請求が韓国民法九九九条、九八二条所定の財産相続回復請求権を行使する場合に当たるかどうか(ちなみに被告乙山は、同法九八二条二項所定の戸主相続回復請求権の行使とみているが、これは誤りなので、右のとおり善解する。)、相続回復請求権の法的性質ともからんで疑問がある。しかし、相続回復請求権について短期の行使期間(明文で「時効によって」と規定していないことや立法の目的からして除斥期間と解される。)を設けた理由は、相続に関する争いを短期間に収束させて相続関係を安定させ、もって第三者を保護しようとする点にあることにかんがみれば、相続権の存否に関する争いを前提とし、自己に相続権があることを主張し、遺産に属する物件に対する侵害の回復を求める訴訟上の請求は、すべて相続回復請求権を行使する場合に当たると解するのが相当である。原告の本訴請求は、被告乙山の相続権の存否に関する争いを前提とし、原告に相続権があることを主張し、相続財産に属する本件土地の二分の一の共有持分権について被告乙山のためなされた登記の抹消を求める訴訟であるから、前記財産相続回復請求権を行使する場合に当たるものというべきである。

そこで、進んで、原告が昭和四〇年三月ころ財産相続権の侵害を知ったか否かについて判断する。

《証拠省略》によれば、原告は、甲野太一死亡後間もなく日本から送り届けられた被告乙山作成名義の福井県武生市長に宛てた「証明願」と題する文書で、その奥書に同市長の右のとおり相違ない旨の証明文言のある文書を受け取り、そのころ閲読していること、当該文書の本文には、「甲野太一が昭和四年以来日本に在住し約二〇年ほど福井県○○市△町×××において反毛工業を経営し相当の地位を得、資産を有し居りしも、去る昭和四〇年三月一八日死亡した。仍て此の遺産や遺族によって整理を為すべく知己明友相会して寄て協議中であるが、此の法定の相続人である甲野太郎(原告)を呼寄せて皆々円満裡に解決すべく協議が纒まっていることを証明します。右証明を相願います。」とあり、続いて「昭和四〇年三月二九日、右甲野太一妻、乙山花子」と記載され、その名下に捺印がしてあったこと、が認められるけれども、原告本人尋問の結果によれば、原告は、当時甲野太一の相続財産の具体的内容、同人の日本における家族関係(被告乙山ら妻子の存在)等について承知しておらず、韓国に居住しているため右事項について容易に調査確認できない状況におかれていたことが認められ、右事実に、当該文書の文言の内容、趣旨、さらに当該文書が原告に送り届けられた理由ないし事情が証拠上判然としないことなどの点を合わせ考えると、原告が甲野太一死亡後前記証明願の文書を閲読した一事をもって、原告の甲野太一にかかる財産相続権が僣称相続人である被告乙山により侵害されたことを知ったものと認めるには十分でなく、他に原告が本件訴訟の提起時から逆算して三年以前に右財産相続権の侵害を知ったものと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告乙山の右相続回復請求権の行使期間経過による消滅の抗弁もまた採用できない。

六、被告乙山は、前記三2で認定のとおり、甲野太一の内縁の妻にすぎず同人の財産相続人の地位にはなかったのであるから、甲野太一が有していた本件土地の共有持分権を承継取得するに由なく、したがって被告乙山が甲野太一死亡後被告月山との間においてなした本件共有物分割は、甲野太一の真正な相続人である原告らに対する関係で無効であるといわざるを得ない。

原告は、前記三2で認定のとおり、甲野太一から本件土地の二分の一の共有持分権を法定相続分四分の三の割合に応じて承継取得したものであるから、承継取得した自己の共有持分権(共有持分の割合は二分の一の四分の三、すなわち八分の三)に基づき、甲野太一が有していた本件土地の二分の一の共有持分権について、いわゆる保存行為として単独で、右共有持分権を妨害する関係にある登記簿上の所有名義人に対し、当該登記の抹消を請求することができるものというべきである。

したがって、原告は被告乙山に対し、本件第四の土地についてなされた共有者甲野太一持分移転登記の抹消を請求することができるが、同土地についてなされた月山一郎持分全部移転登記は被告月山にかかる本件土地の共有持分権を被告乙山に移転する旨の登記であって原告らの共有持分権を妨害する関係にあるわけではないから、右登記の抹消を求める請求部分は失当として棄却されるべきである。

また、原告は被告月山に対し、本件第一の土地についてなされた甲野太一持分全部移転登記の抹消を請求することができるが、本件第二、第三の土地についてなされた甲野太一持分全部移転登記の各抹消を求める請求部分は、それぞれ登記簿上の所有名義人ではない被告海川、同山川に対してなされているので、被告適格を有しない者に対する不適法な訴えとして却下されるべきである。

さらに原告は、被告海川に対し本件第二の土地についてなされた被告海川に対する所有権移転登記、被告山川に対し本件第三の土地についてなされた被告山川に対する所有権移転登記の各抹消を求めているが、右各所有権移転登記は被告月山にかかる共有持分権に関しては実体関係に符合するものであり、原告は前記のとおり甲野太一にかかる共有持分権についてのみ物権的な妨害排除請求権を有するにすぎないのであるから、このような場合は、原告は登記簿上の所有名義人である被告海川、同山川に対し自己の八分の三の共有持分権についてのみ一部抹消(更正)登記手続を求めることができるにとどまり(ちなみに、甲野秋代は本訴の当事者とされていないので、原告において同人にかかる八分の一の共有持分権についてまで更正登記手続を求める資格を有しないといわなければならない。)、その全部の抹消登記手続を求めることはできないものと解すべきである。したがって、被告海川、同山川に対する右各所有権移転登記の抹消を求める請求部分は、右の限度で理由があり、その余は失当として棄却されるべきである。

七、よって原告の本訴請求は、被告乙山に対し本件第四の土地についてなされた共有者甲野太一持分移転登記の抹消、被告月山に対し本件第一の土地についてなされた甲野太一持分全部移転登記の抹消、被告海川、同山川に対しそれぞれ本件第二、第三の土地についてなされた同被告らに対する各所有権移転登記中、前記六記載のとおり一部抹消(更正)登記を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告海川、同山川に対しそれぞれ本件第二、第三の土地についてなされた甲野太一持分全部移転登記の各抹消を求める部分は不適法であるから、これを却下し、被告乙山に対し本件第四の土地についてなされた月山一郎持分全部移転登記の抹消、被告海川、同山川に対しそれぞれ本件第二、第三の土地についてなされた同被告らに対する各所有権移転登記中、右一部抹消(更正)登記を除く部分の各抹消を求める部分は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹原俊一)

〈以下省略〉

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